2023年9月アーカイブ

田中綾子2人展

昼間部講師の田中綾子です。

島田佳樹さんと2人展を行います。
お近くにお越しの際はぜひご覧ください。
 
 
「Of course I still… you.」

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会期
2023年9月11日(月) - 9月30日(土)
12:00-19:00 会期中無休

会場
ART TRACE GALLERY
@art_trace_gallery

東京都墨田区 緑 2-13-19 秋山ビル1F
JR 両国駅 東口 徒歩 9分
都営大江戸線 両国駅 A5出口 徒歩 5分

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目覚めると、硬く冷たいアスファルトの上に横たわっていた。頭が痛い。
のそりと起き上がる。
近くにある街灯が静まり返った道路を静かに照らしている。
昨日はヤケになって馴染みの中華料理屋でひたすら食べて飲み、二件ハシゴしたところまでは覚えているが、そのあとどうやってここに来たのか定かでない。
スマホを取り出すと一緒にバラ銭が出てきた。昨日の釣りだろう。
マップアプリを確認すると中華料理屋から家までのちょうど真ん中にいるらしい。
時刻を見れば当に終電は過ぎ、道はタクシーも通らない寂しい通りだ。
諦めて歩くことにする。
それもこれも全部あいつが悪い。あんな形での別れはとても望んだものではない。大体…
マップアプリの表示する最短ルートで歩き始めるのとおなじくして、昨日の出来事が頭をぐるぐると掻き回す。

考えても仕方ない。
少し乾いた鼻腔の中に吐瀉物の匂いが充満している。この匂いを感じるたびもう2度と飲むものかと思うのだが、数日もすればまた忘れて痛飲するのだ、愚かとは思いつつも止めれないあたりタチの悪い悪癖なのだろう。これは、ある種の緩やかな自殺なのかも知れない。

しかし、あいつは何故あんな思い切った行動をとったのか。そういうタイプでもなかったように感じていたが、人間などというものは外から観測するだけでは中まで分からないもので、あんなにも長いこと付き合いがあったが、所詮他者の内面など分からない。
確かに人並みに色々と苦労はあったのだろうが、いつも飄々とあっけらかんと自立しているようだった。が、その心は不安定きわまりないものだったのかもしれぬ。
人は心に拠り所となるものをたくさん持つが、こうして歩く私の拠り所もぐらぐらとしていて、そのぐらついた地面を両の足で確実に踏み締め、歩き続けていることでギリギリ地面との垂直関係を保っているのかも知れない。
と、足がもつれて転ぶ。
思わずついた手のひらが痛い。あーこれ血が出てんな。
街灯の灯りに手をかざすと、大きな赤黒い染みができている。さりとて止血できるものも持ち合わせておらず、間に合わせとして手を頭上にあげ、手首を軽く抑えたまま再び歩き出す。酔いのためか痛みは感じない。

信号で歩みを止めると、向こう側の街灯の真下に座っている人が見えた。この時間帯だ、恐らく僕と同じく酔っ払いだろう。よくよく見れば上等なスーツを着ている。そいつは天を仰いで大きな声をあげる。
「あーー!!!!死にたくねえ!!!!!」

関わりたくはないがマップアプリはこの道を渡れという。
そっと渡るか。信号が青になる。横断歩道を手を挙げて渡る。通る車もないのだが。

街灯の光の外側で、件のスーツとすれ違うが僕のことなど目もくれない様子でひたすらにワーワー叫んでいる。
通りすぎ、数歩歩くと叫び声が急に止んだ。

後ろを見ればそいつは静かに横たわっている。
いつのまに脱いだのか、スーツとシャツは体の端ににもつれてぐしゃぐしゃの塊となり、体のフォルムと合わさって異様なシルエットの塊になっていた。

手を挙げたまま一瞥して少し笑う。

俺も似たようなものか。というかあいつは今頃こうなっているかもしれん。

ふたたび歩き出す。
家まであと三分の一といったところか。まだ血は止まりそうにない。
途中の自販機で水でも買って行こう。
家は川を渡った先にある。向こうに行けば、またあいつに会えるかもしれない。それに多少は賑やかだろう。

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