●バランス
彫刻家の仕事は、常にバランスをとることを求められます。
骨格やプロポーションのように視覚的なこともそうですが、空間のあり方や重量など三次元的なことに関わる部分でもそれは求められます。
バランスはいくつかの要素があるときに生まれ、それらを中和させたり反発させたりしながら関係性を作り上げていきます。
しかし、彫刻家はそうやって作り上げたバランスをあえて崩していくことも求められます。
人間はバランスをとって二本足で立っています。しかし動こうと思えば、一歩足を前に出します。そう、バランスを崩しにいくわけです。と同時にその動きに対して瞬時にバランスをとります。そのようにして人間は倒れずに動くのです。
彫刻はそのように動く人間と同じように動きを追いかけています。彫刻は動きに対して敏感です。それは制作の中で具象・抽象関係なくいつも行き来する感覚です。常にバランスをとり、崩してはまたバランスをとりながらギリギリのところで存在しています。
物質的なことだけではなく、制作に対する姿勢や考え方も同じです。
水のようにいつも動いていること。留まっては腐る。
ある地点に到達したら、またそれを崩し新たな地点を目指し動き続けることが彫刻家の仕事なのだと私は思います。
西嶋雄志