2007年5月アーカイブ

 「インタビュー企画第1弾」
 すいどーばた美術学院彫刻科主任 中瀬康志に聞く
                  インタビューアー 西嶋

インタビュー企画の初回は、彫刻科の主任という立場から中瀬さんがどのように受験やすいどーばたを見ているのかを伺っていこうと思います。

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西嶋:
こんにちは。第一回目のインタビューと言うことで、まずこのホームページを
立ち上げた理由からお伺いしたいと思います。

中瀬:
いちばん大きな理由は、彫刻を学ぼうとするたくさんの人達に、受験に関しては勿論ですが、彫刻に関しての様々なことが伝えられたらいいな、と言う思いからでしたね。
 基本的に予備校は競争社会ですから、ともすれば閉鎖的になりがちなんですね。それでは彫刻を学ぶ事自体の楽しさとか広がりさえも伝わらないのでは、という危惧感はずっとありましたから。

西嶋:
「すいどーばた彫刻科」は中瀬さんから見てどのような所だと思っていますか?例えば特徴であるとか。
 
中瀬:
そうですね・・・。やはり「すいどーばた」はその伝統、言ってみれば予備校界のパイオニアとしての存在ということが一番ではないでしょうか。
 御承知のように今現在の美大での指導的な立場にいらっしゃる方々、そして美術界で活躍されている多くの作家がすいどーばたの彫刻科の出身です。
そうしたことからも、いわゆる大学とは別の意味での、過激な程熱中した青春時代の思い出は勿論のこと、その後の様々な交流の礎となっている事も多いのではないでしょうか。
 勿論、苦渋に満ちた苦い経験という代名詞になっている人もいるでしょうが(笑)
今現在でもそうですが、すいどーばたの夏季講習会ともなると、「彫刻の甲子園」なんて私は言ってますが、本当に全国の個性的な美術系高校を中心に優秀な高校生がたくさん集まって来るんですね。そうした学生達が若いうちから実技面での切磋琢磨は勿論、それぞれの人間としての交流を深めている。そういう場に立ち会っていると「日本はいけるぞ!!,」なんて頼もしく思いますよ。

西嶋:
すいどーばた彫刻科の指導の特徴とか、中瀬さん自身が指導上で大事にされていることはどんなことですか?

中瀬:
受験結果からも解るように、すいどーばたは東京芸大を中心に私立美大の受験結果も他の予備校を圧倒しています。優秀な学生が数多く集まる、ということもあるのですが、非常に個性的なスタッフが指導面でがっちりサポートしているというのが最も基本的な理由でしょう。
ただ、予備校という場所は受験という大学が求める基準や価値観に到達するための徹底した基礎訓練が主体ですから、ともすれば基礎訓練そのものに対しての意識がマンネリに陥ったり観念的になったり、あるいは狭い価値観に捕われたりと、いってみれば個性や自由といった美術そのものの特徴とは異なる「もろ刃の剣」のようなところがあるんですね。そのために私がまず新学期にメッセージとして学生に投げかけることは大きく二つです。
 一つは、「自治的な集団であれ」ということです。まずは、学校ですから、おのずと集団での学習であったり、それなりの規則もあります。そして、カリキュラムという統一された課題があるわけです。これは当然、合理的に学習していくためのシステムですから避けられません。ですから一方でどうしても必要なのは「自らが考え、自らが行動する」といった「主体性」でしょう。そうした主体性を持った「集団」であって欲しいということです。例えば掃除や片付けさえも自主的な運営、管理で行われることが望ましいし、学校に対する要望も自主的な意見として大切にします。そうした意識から自分の学習の組み立てや意欲を盛り上げていく。そうしたお互いが馴れ合いにならず、アクティブでエネルギッシュな空間になっていくことが一番大切だと思っています。
 二つ目は、「現実にしっかり対応しよう」ということです。
受験は1年という短期間が勝負です。理想だけでもうまくいきません。美術そのものの知識を身につけることや受験に関わる情報をしっかり把握し対応することが成功の秘けつです。最近は殆どいなくなりましたが、学生の中には受験そのものへの不信から離れていこうとする学生もなかにはいるのですが、受験そのものはどんなに矛盾があるにせよ「現実にある」という認識が必要でしょう。私自身も現在の日本の美術の受験制度がいいとは全く思いませんが、これは「現実」にあることなんですね。それをしっかり認識して「立ち向かう」という積極的な気持ちが必要だと思ってます。

西嶋:
今後、このホームページも含めどんな展開を考えていますか?

中瀬:
 現在はどの予備校も学生数が減少しています。そうした中で受験生そのもののメリットを考えると、予備校の保守的な競争ではなく、情報を開示提供していくこととか、学生がもっと自由に交流ができる場所として予備校を変化、成立させていくというのが私の希望です。3年前から始めた湘南美術学院との合同コンクール、そして美大教授(作家)による講演会、そして今回開講する公開講座などもその一環です。
 できれば「彫刻サミット」的なものも開催できたらという思いが何年もあります。いつか実現できたら面白いですね。現状、国公立大学の不自由さがネックですが、彫刻自体の受験者数が減少している中、彫刻の面白さや自由さ、そしてその広がりなど、彫刻が自己表現の優れた表現媒体である事も含め、もっと多様な形で社会へ、次世代へメッセージを投げかけていくことが必要だと思いますね。
 予備校というのはその意味では逆に非常にフレキシブルな立場にあるのではと僕自身は勝手に思っているんですね。そうしたネットワークを構築していく上でも今回の彫刻科独自のホームページは有効だと思ってます。
 一方で大学も自分達の大学を受験、合格した学生だけを相手にした思考や、自分達だけの学生をあらかじめ確保してしまうという美術そのものの自由さとは無縁の制度も変化させていかなければならない、そんな時代になっているのではないでしょうか。

西嶋:
ご協力ありがとうございました。