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2009年12月29日

●多和圭三氏(多摩美術大学教授)に聞く

「インタビュー企画第10弾」
多摩美術大学教授 
多和圭三氏に聞く     インタビュアー/中瀬康志

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(多和氏金属研究室にて)

今年度から多摩美術大学教授となりました多和圭三氏に、多摩美のアトリエに訪ね、大学のこと、指導に関して、そして今の美術に対しての思いを伺ってきました。
高台にある多摩美キャンパスは天空都市のように新しく、各アトリエは機能的に整備され、当日の天気も手伝ってとても爽やか。少々、肉体の衰えた者にはぜ〜ぜ〜の斜面ではありましたが、各アトリエやすいどーばた出身の学生にも沢山出会え、とても楽しく有意義な時間となりました。
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中瀬:
多和さんとは昔、野外展で一緒だったり、美術系高校の非常勤講師もされていましたから、そこへお伺いしたりと、それなりに旧知の関係なのですが、今日は多摩美美術大学の新規の教授、という立場からの感想や思いをいろいろとお伺いしたいと思いますのでどうぞ、宜しくお願い致します。
 
青木野枝さんからのバトンタッチ、というかたちで金属担当の教授としての要請、着任ですが、今年度を振り返っていかがでしょうか?

多和:
そうですね、振り返ると余裕などなく、今は一年の途中なので何も分からないと言うところです。私は、金属担当ですが、担当学生が決まっている訳ではなくて、塑造、石彫、木彫、諸材料といった他の素材のアトリエにも行きますよ。つまり全教員で全学生を見て行くと言うことなんです。今の多摩美の彫刻学科はこんなふうに変わりましたね。


中瀬:
一貫して金属、鉄を使った作家なので、基本的に金属についての指導や質問に対しての対応はする、ということですね?

多和:
非常勤の先生は担当が決まっている人もいるけれど、専任は全体にわたって見るということなんです。1年から4年、そして大学院もですね。

中瀬:
どうでしょうか、実際、現場に来て大変だったこととかありますか?
普通に作家をされている方よりも、大学での指導現場に長くいられた訳ですから、かなりスムーズに入られたとは思うのですが。

多和:
そうですね、大変なのは大変なのでしょうが、何が大変なのか、さえ、分かっていないのが現実です(笑)。
私は日芸出身で、日芸で講師も随分長い間やらせてもらいました。そして、武蔵美が14〜5年くらいやらせてもらっています。今まで多摩美とは、何の関係もありませんでしたから何の情報も、持っていませんでした。同じ彫刻科でやることなんだから、何とかなるのでは、と深く考え過ぎないでやっています。
自分も学生も仕事がしやすい場をつくること、それが出来ればと考えています。

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中瀬:
今までは非常勤で一種のサポート的役割でしたが、今度は主体的に変えて行く立場ですよね。

多和:
実を言えば、私は、まだアルバイト気分が抜け切れていません。でも学校にくると、学生がいるんです。これは当たり前のことですが、大変なことでもあります。


中瀬:
多和さんは、なんと言うか学生がいないところで孤独にというか孤高にというか仕事をする作家というイメージがあるんですが・・・?

多和:
そんな格好良いものではありません。ただ学生に負けないように制作していければと思っています。私もそうでしたが、学生の時は、制作していても、世の中との繋がりが分からなく「こんなことをやっていて本当に大丈夫なのか・・・?」と不安に成ることもあるでしょう。そういう時に、いい大人が血相変えて訳のわからないことをやっているのを見れば、「あんなものでいいんだ〜」と気安めになればいいかなと思います。

中瀬:
ここでは自分の制作の姿を見せるということも指導のひとつだとということ?

多和:
指導には、成りませんが、何か刺激には成ると思います。お互いに物をつくると言う立場から刺激しあえればいいと思いますし、若いとか、年寄りとか関係なく同等だと思います。

中瀬:
今までは自分のアトリエあっての制作、今度は大学の現場(アトリエ)での制作と、何か生活や制作の違いみたいなものはありますか?

多和:
私は今まで、大学で作品を作ってきました。大学のある場所を間借りするような形ですね。偉そうな間借り人ですが。最初の内は、日芸でやらさせてもらっていましたが、日芸より武蔵美で制作していました。これからは、多摩美で制作する事に成ると思います。

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(多和氏 制作中作品)


中瀬:
鉄とハンマー抱えていつも旅人のように?(笑)

多和:
どこでもできる仕事ですから。
どこでなきゃダメだと言うような仕事では、ありません。またある意味、自由と言えば言えるでしょう。でも、そんな格好の良い仕事ではありません。要は、いろいろな意味で何もないと言うことだと思っています。

中瀬:
学生のほうは、ここにいずっぱりじゃなくて、自由にどこかに出て行って、先生は出した課題や作った作品に対して指導に出かけていく、という感じもあるわけですね。

多和:
そうですね。今もちょうど、午前中に、35人の1年生全員が金属実習をやっています。基本的に学生は一年間で4課題をやることになっています。
1年生のうちにそれぞれ諸材料であったり、木彫、塑造、金属実習それぞれをやります。石彫だけは2年になってからということになります。

中瀬:
ちなみに多和さんが出される、金属の課題はどんな事をやられるんですか?

多和:
今年はね、自分が作ってみたいとか興味ある「鉢植え」を各自に買ってこさせて、それを観察してつくる。それから植木鉢の中の見えない部分は、自分の想像で作りなさい。見えないところは、好きに作ればいい。しかし、上と下は何だかの関係付けがなされていること。それが課題です。
金属のひとつの特徴である、かなり無理な形でも作れる、という所から植物がでてきました。一つのものを作る、ということを通して、様々な経験が出来ると思います。
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(金属工房)

中瀬:
学生数もかなりたくさんいますよね?

多和:
はい、ひと学年 35名です。1年生用の実習室が2部屋あって、そこで色々な実習を行います。

中瀬:
当然、学生からはいろんなバリエーションが出てくるでしょうから、それに対しての技術指導もされるわけですね?

多和:
そうです。「こうしたいのですが」と学生に言われると、それに対して非常勤の先生と協力しながら指導していきます。ガス溶接は技能講習を受けてきて貰って、免許がないと出来ませんので、学外で免許を取って来てもらいます。
今、学生は、1週間半くらいで、19mmの板で直角の「ゲージ」を作っています。溶断した面を摺り合わせをして、きちんと平面を出し、溶接して仕上げます。何かを作ることより、金属という素材になれ、物の厚味を意識してくれるようになればいいかなと思います。言葉でなく直角とか、平面をつくることによって感じてもらうこと。このことが大切だと思います。
「鉢植え」の課題で使う鉄は厚さ3.2mmで、3×6(90cm×180cm)の半分を与えています。他の材料も使いたい場合には個人が発注して購入して使う。アーク溶接も使いますが、基本的にはガス溶接で作ります。鉄と熱の関係を感じてもらえればと思います。

中瀬:
ところで、大学の設備はどうですかね?他の大学との比較になるかもしれませんが。

多和:
多摩美の金属の場合は、すごく沢山機械がある訳ではありません。切って、付けて、削ると言う最低限のものが揃っていればいいのではと思っています。 
あとは「炙る」とかね。
 大袈裟な機械よりも、サンダーが人数分あるほうが大切と考えています。
そう、来年には集塵機が入りますね。学生の安全と健康のために、集塵機が入ります。私達の頃はマスクもしないで仕事をしていましたが。
今は女の子が多くなったという訳ではないですが、健康や安全、環境には気を使っています。
話は、変って女の子が多くなったと言うことで言えば、今の女の子はバリバリ仕事しますよね!
男だ、女だ、って考えなくていい時代になってきてるかもしれないね。
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(多和氏 歩く...)
中瀬:
ご承知のようにどこの美術系高校も9割9分女子学生。その中で彫刻をやろうとするわけですから、それなりに気合い入って強いでしょうね。
「女子学生が増えた」、「男が弱い」(笑)とか..その他に何か特徴的なことってありますか?

多和:
そうですね。今の子は知らず知らずの内に相当量の情報を得てしまっている状態だと思います。ややもすると、そうした情報で自分を見失ってしまうところもあると思います。自分が何をどうしたいのかってことが逆に分からなくなる。
意識しなくても入って来てしまう情報にどう対処していくのか、それが難しいでしょうね。

中瀬:
日本のど真ん中、東京にいて、最先端の情報というのは何かって問われても、以外と「どこそこのギャラリーで、何が売れているとか、メジャーだとかっていう、そういう関係の情報の強さがかえって学生を不自由にさせているとうこともあるんですかね。

多和:
あると思います。自分がしたい事を強く持っていないと、情報に流されてしまう。まず、何より大切なことは、生きることだと思います。自分がやりたいことをやると、なかなかお金にはつながらないと言う日本の現状の中で、やりたい事と生活、この両立はとても悩ましい問題です。


中瀬:
それを言葉でどうのこうの言うわけにはいかないし、先ほど言われた自分の生き方で見せていく、と。

多和:
自分の作ったものを見た次の世代の何人かに、「こんなことやってた奴がいたなぁ〜」と思ってもらえたらいいなぁ〜と、何と言うこともなく思っています。

中瀬:
さて、質問は少し変わるのですが、最近は大学院の学生が少ないと聞いているのですが?

多和:
今の二年生は少なくて、4人ですかね。一年生は、定員12名の所、11名です。

中瀬:
予備校から見ると、大学院へ進む学生が少ないということは作家として育つ可能性が低いのでは?と思うのですが。

多和:
学部生も大学院も基本的には同じで、作家になるならかないは本人が本人の意志で決める事だと思います。もちろん、私もものを作る人間ですから、ものを作るという同じ志の若い仲間が増えるのは嬉しい事です。だから、なりたい人は作家を志してほしいと思います。けれど、そのために学校があるというようには考えたくありません。立体の勉強には、時間がかかります。4年間では、足りない人もいるでしょう、もう少し時間をかけてやってみようと思う人がいてもいいと思います。その結果、作家に成りたいと言う人が出て来てもこれもまたいいと思いますね。

中瀬:
予備校で「作家になりたい人〜!!」って聞くと、「し〜ん・・」としてる。作家というものがよく分かっていないみたいだし、中には雑貨屋さんになりたい、って人もいたりして今は多様ですね。

多和:
高校生で美術を選択して、大学に進学して美術の道に入って行くわけだけど、中には、その選択を変更したい人も出てくるし、作家に成る人が居てもいいと思うし、又、作家に成らない人がいてもいいと思います。
美術大学で学んだことは、その後の人生の中で、何らかの形で生かされるものだと私は信じています。
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(多和氏 話す)
中瀬:
最後の質問になるのですが、自分自身がこんな質問受けたらどうしよ〜なんて質問なんですが(笑)、
「今の美術について、どう思われますか?」
かなりグローバルな質問ですが。

多和:
今の美術はどうのこうのと言うことは、私には出来ません。
とんちんかんな事をいいますが、売れることが目的と成ってしまっている動きに対しては注意をしたいと思います。
俺だって売れるものなら、売れたいと強く思います。

中瀬:
多和さんのモノが?多和さん自身が?芸能人じゃないんだから。(笑)

多和:
私は売れないでしょう。(笑)私自身はずっと前に賞味期限が過ぎていますよ。(笑)
美術の「状況」とよく言われますが、美術がなくて「状況」を見て、「美術、美術」と言っているような気がします。「今、美術はどうなっていますか」と聞かれれば、一人一人の作家が今やっている事、それが今の美術だと思いますと私はそんな事しか言えません。
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(研究室入り口のオブジェの巨大木魚にびっくり)

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インタビュー後記
微動だにしない意志、そして雄大な時間を超えてきたかのような存在感。人も作品も違わずイコールとなる、そんなものを漂わせていました。飾ることなく作業着に身を包んだ姿は、おおよそ「教授」という職とは無縁のようにも見えますが、こうした姿も学生にはとても身近な存在として多くの学生とのコミュニケーションを可能にしていくのかもしれません。
 当日は学内の隅々まで案内頂き、多くの旧知の学生に会うこともできました。
お忙しい中、わざわざ時間を割いてインタビューに答えて頂きました事、心より感謝申し上げます。
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