2010年5月アーカイブ

2008合格者体験記特集

「インタビュー企画第12弾」
 2008合格者体験記特集

2008年度芸大に合格した学生の体験記がwabや入学案内に載っていますが、
こちらにまとめてみようと思います。
それぞれにリアリティーがあります。
参考にしてください。




・セント・ジョセフ
satohkao.jpg
佐藤真莉子(1浪・大妻中野高校)
武蔵野美術大学 彫刻科/東京芸術大学 彫刻科 合格
satojyose.jpg

4月、1浪することが決まった私は、こうなったらどばたの星になってやる!と誓った。
 しかし現実はそう甘いものではなく、実際に始まったのは悩める日々だった。見ている様で見えていない形、描いたはずの絵がいつの間にか消えていく摩訶不思議現象、頑張って描いたのに強引といわれる絵。謎が謎をよび、不安が不安をよび、いつの間にかデッサンに対する姿勢が変わっていってしまった。好きなことが次第に苦手になり嫌になっていった。自分が今までどうやってデッサンをしていたか分からなくなり絵を描く方法論にたよった。当然コンクールの結果もついてこなかった。
 デッサンが描けない自分に残されたものはもう塑造しかないと思った。塑造だけは誰よりも上手くなろうと決意した。塑造は大好きだった。粘土に触るだけで身も心も癒された。しかしデッサンと塑造の溝は深まるばかりで塑造が好きになればなるほどデッサンへの苦手意識は強くなった。
 そんな中むかえた本番。奇跡だと思った。試験のデッサンのモチーフは、今まで私がどんなに辛い時期でも必ず描けてきた1番好きな石膏像だった。自分の席を前にして、1年間私が苦しんできたのはこの1枚を仕上げる為だったんだと分かった。偶然と言われたらそれまでだけど、私には本当にはっきりとそう感じた。試験中にも関わらず泣きそうになった。
 1年間、満足できた絵はこれっぽっちもない。でも、良い絵を描くためにしてきた様々な努力は絶対に嘘をつかないのだと分かった。それが分かっただけでも私にとっての1年の成果はあったのだと思う。
 最後に、私が猛烈にしんどくてもどばたに通ってこられたのは友人や先生のいるどばたが大好きだったからです。長い間お世話になりました。本当にありがとうございました!




・私の本気≠本気の私
masubuchikao.jpg
増渕剛志(多浪・小山高校)
東京芸術大学 彫刻科 合格
masujikoku.jpg

「本気でやってるの?」
この言葉で私の自信は見事に打ち砕かれた。すいどーばたに入学して三年。塑造だけは絶対の自信があったが、よりによってそれを否定されるとは夢にも思わなかった。芸大に二度目の烙印を押された去年の春、変化を求めて受験とは関係のないところで生きる作家に作品を見てもらった。受験生だろうがプロだろうが関係ない、お前の作品はすべてにおいて中途半端だと言われた。ショックだった。プロとしての作家の厳しさをまざまざと見せつけられた。今思えば確かにその作品は基本を抑えただけのものに過ぎなかった。いつの間にか時間がないことを言い訳にし、これくらいでいいやという気持ちが体中に染み込んでいた。所詮自分の塑造は受験レベルなのだということを自覚し、大学に入ってからの仕事を、作家としての自分を意識することにより、日々の実技に対するモチベーションを高めていった。「本当にこれで良いのか。」「お前の見ている世界はこんなものか。」自問自答を繰り返し、少しでも実技に対する甘い考えを消し去るように自分を突き放し客観性の充実に努めていった。
そして最後の一ヶ月。高まる緊張と不安の中で守りに入ろうとする自分を奮い立たせるように覚悟を決めた。「行くしかない。」攻めの描きだし、攻めの確認,攻めの描写。思いっきり描いて思いっきり直す。手が自然と動くうちに描くのが怖くなくなった。昨日よりも今日、今日よりも明日、明日よりも明後日、自分の限界を超えていくという前向きな気持ちが実技を後押ししてくれたように思う。引っ込み思案だった私をいつの間にか受験が変えてくれた。この受験を通して最後まであきらめず前に進んでいく大切さを学んだような気がする。まだまだ自分に対する甘さは拭いきれず未熟ではあるけれど、そんな自分にこれからも厳しくいつまでも問い続けていきたい「本気でやっているのか。」と。




・彫刻科の皆様へ
okajimakao.jpg
岡島飛鳥(1浪・芝浦工業大学柏高校)
東京芸術大学 彫刻科/東京造形大学 美術学部彫刻専攻 合格
okajyoru.jpg

この1年で見つけたことといったら、彫刻の量や動き、力、などもそうなんだけれども、1番大きなものは「人」であったと思うんです。朝どばたに来て、いつでも誰かが笑っていて、どうでもいいようなことなんかを話して、制作中は皆、性格悪そうに見えるし、真剣に話してみれば皆本当に熱くて。そんな人の中、1年間過ごしてきました。本当に幸せでした。全員が同じモチーフに向かって、色々な制約のある中で制作をすることは、異様なことであるのかもしれません。けれど、だからこそ気付くことができた「人」と「自分」もあったんじゃないかなんて思いもしています。入直のコンクールで全員の作品がひと部屋に並べられた時、どれもみんな違っていて、面白くて、いいなって素直に思いました。なんだかその頃には自分のことを認められるようになっていました。このたくさんの中のひとつであれて良かったと思ったんです。
 これが僕の1年間の全てです。この1年が自分の分厚い皮膚になってしまうような気がしています。本当にありがとう。またね。




・冷静と情熱の間を
kitadakao.jpg
北田匠(現役・岩手県立不来方高等学校)
東京芸術大学 彫刻科 合格
kitaberu.jpg

「冷静と情熱の間」入直の間、その言葉ばかりとなえていた気がする。地方ということもあって2年の始めから通信と講習会を受講してきた。3年の冬季頃には安定した実力もついてきて自信もあったが、センターを終えて入直にくると周囲がかわっていた。浪人生は今まで見たことのない馬力できてるし、現役もノーマークの奴らがやたらと上手くなっていて急に焦った。がんがん伸びる周囲の中で、安定はしていても伸び悩む自分。いつその伸びが自分に訪れるのか不安だった。目も利くようになってこのまま入ってもいいのだろうかと迷っていたとき、自分が逃げていることに気付いた。そんなことを言ったって仕方ない。今ここで受からなきゃ後悔する。勉強は一生していくもので、今を生き抜くことが大切なんだって気付いた。それから本当の受験が始まった。自分のために描こう、作ろうと思った。誰かに勝つためでもなく、誰かを喜ばすためでもなく、自分が納得するために。そうするうちに、色んなものが見えて、何もかも楽しくて、誰よりも自由に駆け回りたくなった。作品を作る上で大切なこと、それがこの言葉「冷静と情熱の間」だった。冷静にならなきゃ見えるものも見えないし、本当に伝えたいことも伝えられなくなる。かといって冷静になり過ぎてもつまらないものになってしまう。情熱的にただうちこめば良い訳でもない。その2つのバランスが絶妙に調和した時初めて、本当に自分の伝えたかった言葉が相手に伝わってくれる。よく感じ、よく観察し、思ったことを丁寧に、大胆な方法で伝える。そう出来るようやってきました。
 受験は人が決めること、そこで悩むより、貪欲に学びにいく方が実は重要だったり。
 芸大合格は自分にとってのスタート地点。どばたの存在が自分に有意義な時間を与えてくれた気がします。世界一の彫刻家になれるよう頑張ります。